青幻記:画像/壁紙[文学][他形式: 携帯版] |
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| 2006/05/10 最高(+3 pnt) by 遠野 第3回太宰治賞受賞作品。1967年、沖縄が米軍統治下にあった頃に執筆された作品です。 母の足跡を辿ってサンゴ礁の孤島を訪れた、初老の男性。彼の少年時代の回想、そして別離。実話を基にしており、著者(と母親)の自伝小説という一面も有しています。 昭和のはじめ、母親の結核発病を期に再会を果した――それまで無理やり引き離されていた――母と子。最期の時を故郷で過ごすため、病身をおして旅立つ母に、少年はなし崩しにくっついて、島へと戻ってしまう。 それからの半年間を中心に、深い愛情と哀切、鮮やかな情景描写で描き出した、切なくも美しい小説です。 本書の文章の一部を、近年発行された恩田陸の短編集「図書室の海」に収録された一編「ある映画の記憶」の中で、端々に見ることができます。そこから「青幻記」に興味を持った人も多くあるでしょう。かく言う私もその中の一人なのですけれど。 随分前に絶版になっているらしく、入手する事は叶いませんでしたが、図書館で借りることができました。 自分が生まれる前に書かれた小説、読み辛いのだろうな、と思っていましたが(実際、序盤の少年の不幸な境遇には、暗澹たる気分になりましたが)、清冽に綴られる、美しい母親の姿や、色彩豊かでありながら、その土壌ゆえに安定とはほど遠い島の生活のさまには、ぐいぐい引き込まれました。 特に、母が子に向ける、狂おしいまでの愛情には、胸が痛くなりました。柔らかな言葉づかい、はかなげな存在感、その裏側に見え隠れする強い想い。子どもの記憶であるから、ある程度、美化は為されているのでしょう。しかしそういった要素ですら、この小説に刹那性を与え、より一層、哀切漂う、印象深い小説へと昇華させています。 老いた主人公が、嘗て自分達の住まいだった場所に還りついた際、ふわりと現れた幻影も、なめらかに幻想的。 記憶の海からまぼろしへ、ごく自然に移行し、現へと戻ってくる。この一連の不可思議さが、とても秀逸なのです。 良い文章にとって、多少の時代の隔たりは、実質隔たりとは成り得ないのだな……と、納得させられてしまいました。 第4章「サンゴ礁」は特に絶品。せまりくる絶望への予感と焦燥、異常を感じ取りながらも、死を理解していない子どもへのもどかしさ。 しかし、何よりも優れているのは矢張り、死を目前にした母親の一挙一動の瑞々しさであると思います。言葉や行動を描写する、その一文字一文字から、感情が溢れ出して来るのを感じます。 瞬きのたびに変容する海の恐ろしさが、それに拍車をかけているよう。瞼の裏側に、情景が流れ込んで来そうな編です。綴られたさまざまなものに、圧倒されてしまいました。 生命力に満ち溢れておりながら、その実屍骸の集まりであるエラブ島。一見豊かでありながら、じわじわと困窮してゆく島での暮らし。幸福の裏側にしのびよる、喪失の影。 柔らかな筆づかいで描かれた絶妙なバランスが、この小説の遣り切れないまでの美しさを、より一層深いものに仕上げています。島での生活を挟んで長く続く、少年の苦難の道程が、それを更に際立たせていました。 読み終わってみれば、陰鬱すらも内包して、底から輝くような小説でした。 手に取ることが困難な小説ですが、一読の価値のある作品です。 原作に惚れこんだ監督により、忠実に映像化されたという映画も、凄く気になっています。可能であるならば是非、見てみたい。 |
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